前号までの「因果はめぐる」の中で、活性酸素は、普通の生活をしているだけで(生きているだけで)、体の中に自然に発生していることを説明致しました。この自然発生の活性酸素は、我々が生きている限り甘受しなければならない仕方のないものなのですが、実は我々の体は様々な外界の影響によって、この余分に活性酸素を発生させたり受け入れたりしているのです。
この余分の活性酸素は自分が注意することにより、ある程度、その発生を抑えたり、外界からの受け入れをなるべく少なくすること、すなわちコントロールすることが出来ることが分かっています。何度も申しましたように、活性酸素はあらゆる病気の根源的な原因でもあり、老化を促進し寿命を縮める原因でもありますから、このコントロールのコツを飲み込めれば、自分の健康と長寿に役立つことは間違いありません。
さて、それではどんなものが活性酸素の発生源になっているのでしょうか。これは、あまり難しく考えることはありません。我々が昔から悪いと教えられてきたことのほとんどが活性酸素の発生源になっているからです。すなわち、放射線、紫外線、電磁波、排気ガス、農薬、脂肪食、精神的・肉体的ストレス、不眠、過労、タバコ等々です。
少し抽象的な話ばかりが先行しましたので、退屈された方々もおられるでしょう。このうち悪名高いタバコを例に取り、少し詳しく説明してみましょう。
タバコが健康に悪いということはすでに語り尽くされ、今や3歳の幼児でも知っている常識にすらなっています。しかし、タバコが有害であることが世の中の共通の認識となったのは、そんなに古い昔のことではありません。
タバコの害は3つに大別されます。影響の多い順に申しますと、①肺がんの最大要因である、②閉塞性肺疾患の原因である、③ニコチンが特に循環器に対して悪い影響を及ぼす、となります。このうち②と③は、活性酸素と直接の関わり合いは薄いので、今回は説明を省略して、タバコと肺がんの関係にのみ絞ってお話します。
タバコの収益は国家の重大な収入源であり、そのため、タバコが健康に重大な被害をもたらすことを認めることに、お上はあまり乗り気ではありませんでした。今でもタバコに対する取り組みは欧米に比べて及び腰です。実は、我々が医学生の頃(約 50 年前)から、タバコは肺がんの原因ではないかとしきりに言われていたのですが、これに反対する人も多く、何となくこの問題は灰色のままウヤムヤにされていた時代が長く続きました。それがいつの間に、タバコは肺がんの原因であると断定されるようになったのでしょうか。どういういきさつがこの間にあったのでしょうか。続きを次号に譲ります。
(2005年4月1日掲載記事)