タバコの煙の中には、有名な発がん物質ベンツピレンをはじめとして、数多くの発がん物質が含まれていることは何十年も前から分かっており、このことはタバコ発がん説の有力な論拠となり反対派を土俵際まで追い詰めたのですが、反対派を寄り切ってしまう決定的な証拠に欠けていました。決定的な証拠とは、例えば、動物にタバコを吸わせて発がんさせることです。もしこれが成功すれば、問題は即決着です。当時は、ウサギやネズミを狭い箱に閉じ込めて、色々な工夫を凝らしてタバコの煙を無理やり吸わせる発がん実験が盛んに行われていましたが、残念ながらどれも成功しませんでした。不勉強のため間違っているかもしれませんが、多分今に至るまで、動物のタバコ発がん実験は成功していないはずです。しかし、現在ではタバコ発がん説はほぼ医学の常識になっています。それでは、土俵際で粘りに粘っていた反対派が、ついに土俵を割ってしまったのはどうしてなのか、何があったのか、次回はその話をいたしましょう。
 その前に反対派の人たち、と言うよりは、真面目にこの問題を考えてきた人たちが提唱してきたタバコ発がん説に対する疑問点を列挙しておきます。これらの問題点はタバコ発がんの本質に迫る重大な問題を含んでおり、今でも完全に解決されていませんが、活性酸素が重大な関わり合いを持っているのは、まず間違いありません。それでは、問題点を列挙しますので、皆さんも考えておいて下さい。
①タバコの煙ががんの原因であるならば、どうして同じ煙なのにパイプや葉巻の発がん率が低いのか(低いのは本当)。この問題では紙巻タバコの紙が悪いのではないかと言われたことがあった(現在では否定)。
②昔、豪雪地域では冬の間家族が炉辺で過ごし、煙を充分に吸っている。炉辺の煙にもタバコの煙にも発がん物質は同じように含まれている。煙が原因ならば、どうしてこのような地域で肺がんは増えないのか。
③タバコの煙が直接作用する肺や食道や咽頭などのがんが増えるのは理解できるが、どうしてすい臓がんや子宮がん、乳がんなどのように遠く離れた臓器のがんも喫煙により増えるのか。
  動物実験でどうしてタバコの煙で発がんさせられないのかを含めて、上記の疑問に現在でも根元から答えることは難しいでしょう。これらの疑問をいわば置き去りにして、タバコが肺がんの原因であることを示し、土俵際で粘る反対派をついに押し出した力士は何だったのでしょうか。次回をお楽しみに。
(2005年5月1日掲載記事)