世の中には、「本当のような嘘の話」が多くあり、医学の世界も例外ではありません。例えば、「食物繊維を多く摂ると大腸ガンになりにくい」といかにも本当らしく囁かれてきましたが、最近の疫学調査では、「この事実はない」と否定されています。「卵はコレステロールが多いので、一日一個にすべきである」とは、今でも言われています。抗加齢学会の会員がこれに疑問を感じ、自分の身体で実験したところ、卵は好きなだけ食べてもコレステロール値に変動はなかったと報告しています。物には「ほど」があり、山のように食べて良いわけではないでしょうが、好きであれば、まあ適当に食べれば良いのではないでしょうか。
尿酸に関してもこれに類する話が多いのです。尿酸は抗酸化作用があり、活性酸素を除去する作用があるのですが、その他に身体の中でどんな働きをするのかはよく分かっていません。動物の血中尿酸値を測ってみますと、別表のように、下等動物から高等動物になるにつれて、血中尿酸値は高くなり、寿命も延びてきているのが分かります。言うまでもなく、生物は進化の過程で、不要なものは次第に減らし、有用なものは育てていくものなのです。進化の過程で獲得した高尿酸値(他の動物に比べて)が、不要であったり有害であったりするはずはない、と私は考えております。
しかし、尿酸は必要以上に悪者扱いされている感があります。その理由は二つあると考えています。
一つは、名前が悪いのです。尿酸といえばどうしても尿を連想し、そこから身体に悪い老廃物というイメージがわいてきて、少なければ少ないほど良いという誤解が生じやすいのです。今一つの理由は、尿酸の研究は、尿酸の過剰弊害を調べることから始まり、それは、今も続いているからです。尿酸値が高くなると痛風や時に腎臓障害が起こることや、そのメカニズムは割合よく分かっています。尿酸の生成の過程もよく分かっており、尿酸排泄促進剤や尿酸生成阻害剤などが血中尿酸値を下げる薬として使用されています。皆様方の中にも服用されておられる方も多いでしょう。
しかし、尿酸が強力な抗酸化作用を有する以外、身体の中でどのような有益な作用をしているかは、ほとんど未解明のままなのです。
尿酸に関して分かっていることは、抗酸化力があること、高すぎると弊害があることくらいであり、そのほかにもおぼろげながら、平均的に男性の方が女性より尿酸値が高いこと、攻撃的で、積極性があり、自己主張も強いような人、ザックバランに言えば、エネルギーに満ちあふれているような人ほど尿酸値の高い傾向があります。このような人は社会的、経済的に成功する率が高く、もともと尿酸値の高い人がそうなったのか、そうなったから尿酸値が高くなったのか、実のところまだよく分かっていないのです。
男性の方が女性に比べ平均して尿酸値が高いのは、男性の方が高等動物である、なんてことは口が裂けても申せません。多分、抗酸化作用のある女性ホルモンを持っていない男性を哀れんで、神様が多少多い目に配分してくれたのでしょう。私の外来の実感によれば、女性の尿酸値は近頃徐々に増えてきているように思えてなりません。何て怖ろしいことでしょう。
《参考文献》
『不老革命』吉川敏一/朝日新聞社
『活性酸素の話』永田親義/講談社
『スポーツは体に悪い』加藤邦彦/光文社
『活性酸素の話』角野宏達/MK新聞
(2007年4月1日掲載記事)