アンチオキシダントについて、今までお話してきたことを、少し整理しておきましょう。
全てのものに光と影があるように、酸素には、動物が生きるエネルギーを獲得するには最も適した存在という光の側面と、それから派生する活性酸素が生物の細胞膜やDNAを破壊し、あらゆる病気の根源的な原因となる影の部分があることは、これまで何度も申し上げた通りです。
生物の方も、この影の部分である活性酸素の害に対抗するため、進化の過程で、体内に抗酸化システムを構築しました。その中では、一連の活性酸素消去酵素群(スーパーオキシドラジカル・ジスムターゼ、グルタチオンペルオキシターゼ、カタラーゼ)がよく知られており、なかでもSODと呼ばれているスーパーオキシドラジカル・ジスムターゼは有名で、1985年にカトラーによる寿命とSODの関係が発見されて以来、活性酸素に対する研究や理解が一段と進んできたのです。
体内の抗酸化物質はこの他にも、女性ホルモンや尿酸があります。女性が男性に比べて長生きなのは、女性が摂生するからでも、苦労が少ないからでもなんでもなく、単に、女性ホルモンを多く持っているためだと、私は考えています。尿酸も抗酸化作用がありますが、今の医学では必要以上に悪者にされている傾向が強く、私は、尿酸値の高いことは一般に言われているほど悪いことではなく、むしろいいことだとさえ思っています。機会があれば尿酸のことは改めてお話しましょう。
体内の抗酸化システムの主力であるSODの活性や、女性ホルモンの分泌は、活性酸素自身の攻撃や、重金属類の汚染の結果、年齢とともに低下し、それにつれて高血圧症や糖尿病、ガンなどの成人病が加速度的に増加してくることは、もうご存知の通りでしょう。
活性酸素の害毒に対抗するためには、体内の抗酸化システムだけでは不充分で、自分で作れない抗酸化物質を食べ物の形で摂取する必要があります。これは単に、年を取ったら体内の抗酸化能力が低下するという理由だけではありません。動物は(もちろん人間も)活性酸素の中でも最も毒性の強いヒドロキシラジカル( -OH ・)という活性酸素に対して、自身で対抗する能力を持っていないからです。あと1万年か 10 万年もすれば、進化の過程で -OH ・に対する酵素を持った人類が出現しているかもしれませんが、その時は人間の寿命は飛躍的に延びていることでしょう。
夢物語はさておき、このヒドロキシラジカル( -OH ・)は、強力な酸化力のため、発生するとほぼ同時に周りのものを酸化して、自身は水になってしまい、その存在時間は、ほんの数ナノ秒だと言われています。このヒドロキシラジカル( -OH ・)に対しては、ビタミン類、特にビタミンCとEが対抗いたします。ビタミンCやEは、細胞の重要な部分がこのヒドロキシラジカル( -OH ・)に酸化される前に、身代わりになって酸化されてしまうのです。ビタミン類はこのようにしてどんどん消費されるので、補給の方もこまめに充分量を補う必要があるのです。
植物には、前号で述べたように、この他にも多くの抗酸化物質が含まれています。重複しますのであまり言いませんが、色の濃い、匂いのきつい野菜や植物の根や種は、多くの抗酸化物質が含まれている宝庫なのです。
《参考文献》
『不老革命』吉川敏一著/朝日新聞社
『活性酸素の話』永田親義著/講談社
『食べ物とがん予防』坪野吉孝著/文芸春秋
『活性酸素の話』角野宏達著/MK新聞
(2004年4月1日掲載記事)