活性酸素の話も、指折り数えると、 26 回になってしまいました。もう2年以上になるのですね。最初にこの稿を書くにあたって私が心がけたことは、①できるだけ平易にわかりやすく、②1回1回の話が独立して面白く、③それでいて読み続ければ活性酸素に対してかなり深い知識が得られる、というものでしたが、皆様のご感想はいかがでしたでしょうか。
自分で自分の書いたものを読み返してみると、特に最近は、1回1回の話を面白くするために、全体としての話が散漫になり、少し、タガの緩んだような状態になっているように思います。それほど意気込むほどのことではないのですが、少し褌を締め直して、後半戦に臨みたいと思います。
少しおさらいになりますが、活性酸素は我々が呼吸をしている限り(つまり、生きている限り)、必ず体内に発生し、細胞や遺伝子を攻撃し、これが老化や、ガンや、もろもろの病気の根源的な原因であるとお話しました。だから、どうしても発生する活性酸素は仕方がありませんが、余分な活性酸素の発生や、発生した活性酸素をより素早く、効率よく消去する体の防衛機能を高めることが、結果的には、長寿や、ガンをはじめとするもろもろの病気になりにくい身体作りにどうしても必要なのです。よく、「早期発見」、「早期治療」ということが言われますが、そもそも病気にならない身体作りがこれからは求められるようになってくるでしょう。活性酸素のことをよく知り、どう対処すればいいのか分かれば、この身体作りは自然に出来てくるのです。
100歳を過ぎても、なお心身ともに健やかな人はミリオネラーと呼ばれ、人々の尊敬を受けます。日本は平均寿命では世界一ですが、人口に対するミリオネラーの数は米国より少ないのです。この人たちに長寿の秘訣を聞くことはよく行われますが、その答えの中には、多少の表現の違いはありますが、必ず、「いつも物事を前向きに捉え、くよくよしない」というのがあります。
親指の根元に輪ゴムを巻きつけ、血を通わなくして、親指が蒼白になったり冷たくなったりするのを子供のとき楽しんだ人は多いでしょう。この輪ゴムを外すと、たちまち親指に赤みがさし、温かみが戻り、ドクドクと血が流れるのを感じることが出来ます。血の流れていなかったところに再び血を流すことを血液の再環流と言います。
実は、この再環流のときに大量の活性酸素が発生します。
いつも、物事を悲観的に捉え、くよくよして取り越し苦労をしている人たちがいます。ロダンの考える人もどきに、ほとんど些事とも思えることを真剣に思い悩んでいる人もいます。体面ばかり気にしている人もいます。このような人たちは、今様の言葉で言えば、「ストレスを受けやすい人」「ストレスの多い環境にいる人」と言うことも出来ます。精神的、肉体的なストレスを受けると(つまり苦労すると)、身体は自律神経やホルモンのバランスを失い、血管が収縮するのです。つまり、身体全体が先ほどの親指を輪ゴムで締め上げた状態になり、これが何度も繰り返されれば繰り返されるほど、大量の余分な活性酸素が発生するのです。
「苦労すると老ける」ということは、誰でも知っています。しかし、これが活性酸素と関係があると知っている人は少ないでしょう。若いときの苦労は買ってでもせよと言う言葉があります。若いときは、活性酸素に対する身体の防衛機構が整備されていますので、活性酸素の影響は少ないのですが、歳を取ってからの苦労は健康と長生きには厳禁です。「そんなこと言うても、苦労は向こうからやってくるんや。しゃーないがな」。なるほどそうでしょう。けれど、その苦労を3と受け止めるか、 10 と受け止めるか、100と受け止めるかはその人次第なのです。
「死ぬより以上悪いこと、起こらへんわ」と思い定めれば、大事件は中事件に、中事件は小事件に、小事件は些事になってしまうに違いありません。そして結果もこちらの方がうまく行くことが多いのです。
今回は、気持ちの持ち方が活性酸素の発生に関係し、健康や長寿にいかに大きな影響を与えるかをご説明しました。ほとんど同じ理由で、寝不足、過労、暴飲暴食、過激な運動、厳寒、酷暑などは活性酸素の発生を助ける長生きの敵ですので、ご注意下さい。
《参考文献》
『活性酸素の話』永田親義著/講談社ブルーバックス
『不老革命』古川敏一著/朝日新聞社
(2006年4月1日掲載記事)