ミイラというと、エジプトの、包帯をグルグル巻きにしたミイラを思い浮かべる人が多いようですが、日本にも即身仏と敬称されるミイラが約 20 体おられます。この即身仏になるにはまず、衆生済度のために自分の命を捨てるという明確な覚悟が必要です。その覚悟だけでも我々凡人には到達し得ない境地であるのに、その後にすさまじい修行が待っています。3年、5年の荒行で、余分な体脂肪をそぎ落とした後、まず死ぬ3ヵ月ほど前から、五穀、十穀を断って、草の根、草の実、薬草などのみを食べて餓死の準備をするのです。これを木喰修行といい、おろそかにすると良いミイラにはなれません。次に行うのは土中入定です。3m深の空気孔をつけた石室に入り、鐘を鳴らしながら一心に読経し続けながら餓死していくというすさまじい修行で、人々は鐘が聞こえなくなると高僧が入定したことを知るのです。そしてこの高僧はやがてミイラになり、即身仏―生き仏となって人々の尊敬を一身に集めることになります。
 死んだ人を加工してミイラにするエジプト型ミイラは、死後直ちに腐りやすい内臓や脳を取り出し、その後に薬草や香料や鉱石を詰め、全身に香油を塗って包帯でグルグル巻きにして作り上げます。
 生き仏の木喰修行中の木の実、草の根の薬草は、エジプト型ミイラの詰め物であった薬草や香料と同じ意味があります。つまり、これらは身体の酸化を妨げ、腐敗を防止する役割だったのです。
 何度も申し上げますが、我々は生まれてからずーっと酸化され続けています。酸化され続けることにより、細胞が傷付き、そのために老化が加速し、それに伴う色々な病気に悩まされるようになるのです。若い間は、SODに代表される酵素群が酸化を防止し老化があまり目立ちませんが、SODが減少し始める 40 歳前後から老化は加速し病気になりやすくなります。このように、私たちは中年以降は生まれつき持っている活性酸素に対する抵抗力が次第に失われてきますので、活性酸素に対抗するには外部の力に頼らざるを得なくなってくるのです。
 外部の力とは何でしょうか。それは食べ物なのです。中年以降はより食べ物に気を付け、抗酸化力の強い(活性酸素の毒性を消去する)食べ物をより多く食べるようにしなければなりません。
木喰修行中に高僧が食べていた薬草は抗酸化力の強い食べ物だったのです。 これを見ても分かる通り、活性酸素の働きを妨げる成分は、植物により多く含まれています。これは、植物が生きていくためには日光(紫外線)に 曝 ( さら ) されることがどうしても必要であり、紫外線により発生する活性酸素に対するシステムをより堅固に構築する必要があったからと考えられています。
 我々の身体を活性酸素の害から守ってくれる抗酸化物質は、ミイラの食べ物や詰め物だけではなく、身体の中にもとからあるSODのお話もいたしました。しかし、これだけではないことも皆様もご存知のことと思います。次回から順次ご紹介していきましょう。
《参考文献》
『活性酸素の話』永田親義著/講談社ブルーバックス
『不老革命』古川敏一著/朝日新聞社
(2006年3月1日掲載記事)