放射線が水に当たると右の反応が体内に起こり、ヒドロオキシラジカルという最も強烈な活性酸素が発生することは以前申し上げました。実はこの反応に付随して、過酸化水素、一重項酸素と呼ばれる活性酸素も同時に発生します。活性酸素は4種類ありますが、実にこのうちの3種類までが水を放射線に当てることにより発生するのです。人間の身体の大部分は水で出来ています。これが、放射線が身体に悪いと言われている大きな理由の一つなのです。
 それならいっそ、放射線なんて無くなればいいじゃないかと思われる方がおられるかもしれませんが、実は、この放射線こそ、 30 数億年前、生命を地球に誕生させ、これを進化させ、ついに人間を作り上げた一番の功労者でもあるのです。いわば、人間の恩人なのです。放射線は人間に害を与える存在であると同時に、生物に進化を与え、これを誕生させた大きな功績があるのです。
 この放射線と生物の関係は、酸素と生物の関係によく似ています。つまり、我々の祖先は数十億年前、酸素を利用して食べ物から効率よくエネルギーを取り出す能力を獲得することになりました。エネルギーを効率よく取り出すことに成功した生物は、これにより爆発的な進化を遂げ、多種多様な生物が地球上に出現し、ついに人類が誕生するに至ったのです。そうしてその同じ酸素が、今度は、活性酸素となって人間を攻撃しているのです。
 ちなみに、文中で“エネルギー”という言葉がよく出てきます。生物が生きていくためのこのエネルギーというものは、一体どこから供給されているのでしょうか。これをたどりたどっていくと、ついには太陽にたどり着きます。太陽(核融合反応)から出た光(エネルギーの一種)が植物に吸収されると、植物はこのエネルギーを利用して、大気中の炭酸ガスからでんぷんを合成して、酸素を大気中に放出します。動物はこの植物が作ったでんぷんを食べ、植物が放出した酸素を使ってエネルギーを補給し、炭酸ガスを放出します。この炭酸ガスを使って植物は……と、この循環は太陽がある限り無限に続くのです。
  「因果はめぐる」という言葉がありますが、この地球上のエネルギーの循環、放射線と生物の関係、酸素と人間の関わり合いなどをつらつら眺めてみますと、世の中、善いことばっかり、悪いことばっかり、ということはなく、これらが複雑に入り組んで、因となり果となって、この世が存在しているということがよく分かります。
(2005年2月1日掲載記事)