前回は、最も根源的なスーパーオキシドラジカルという活性酸素を除去する酵素(SOD)の活性が人間だけ飛び抜けて高く、それ故にこそ人間は、体重では何倍もあるゾウに比べてもはるかに長寿であることをお話しました。しかし、なぜ人間だけが飛び抜けてSODの活性が高いのかという疑問に対しては誰も答えることは出来ません。もちろん私にも出来ませんが、色々考えをめぐらすことは出来るのです。
 以下に話すことは何の科学的な根拠も無く、単なる私の新春酔談としてお聞き下さっていいのですが、あらゆる動物の中で、恐らく人間のみが「死」というものを概念として捉え、これを怖れ、「死」の到来をなるべく先へ延ばそうと思っているに違いありません。ネズミやネコは「死」を避ける行動をとりますが、これは死が怖いからではなしに、種の保存という本能がこのような行動をとらしめているのです。彼らはその日その日を生きているだけで、「死」がいずれ自分に訪れるということは理解してはいないのです。あらゆる生き物の中で人間のみが、死を怖れ、死者を悼み、死後の世界に考えをめぐらすことが出来るのです。うまく表現出来ませんが、死を怖れるという心の働きが(その心の働きはつまり大脳の発達がもたらしたものですが)「長生きをしたい」という意思を生み、その意思が何万年にもわたって遺伝子に働きかけて、人間のSODを作る能力が飛び抜けて高くなったのだろうと私は想像しているのです。
 以前、250万年前の原始人の寿命は恐らくイヌとウマの中間の 30 年ぐらいだっただろうと申しましたが、今はその約3倍にもなっています。もう250万年たてば、何倍になっているでしょうか。3倍の270年になっていればすごいですね。何歳になっているかはもちろん分かりませんが、今よりうんと長寿になっていることは間違いないと思っています。
 活性酸素に対しては、きっとその頃はもっと強力な防御態勢を完成させているでしょう。ヒドロキシラジカルという最も強力な活性酸素に対する除去酵素を生物はまだ保有していませんが、その頃になるとひょっとして持っているかもしれませんね。
 余談が少し長くなりましたが、活性酸素を除去する酵素SODは、残念なことに人間の場合、 35 ~ 40 歳くらいから段々減少し始めます。ガンやいわゆる生活習慣病をはじめとする、活性酸素によって引き起こされる様々な慢性病が発症し始めるのも実はこの頃からなのです。お肌の年齢もこの頃から急降下し、しみ、しわが目立つようになり、プリプリした感じがなくなってくるのです。
 250万年の遺伝的変化を待つには、我々の人生は短過ぎます。今与えられた条件の中で、活性酸素の害を防ぎ、健康な長寿を目指すにはどうすればいいのでしょうか。次回からボツボツお話致しましょう。
《参考文献》
『活性酸素の話』永田親義著/講談社ブルーバックス
『不老革命』古川敏一著/朝日新聞社
(2006年2月1日掲載記事)