前回のクイズの答えです。毎日百万円を使えば、1兆円は何年で使い切ることが出来るのでしょうか。私の計算では約2700年になりました。間違っているかもしれませんので、検算してみて下さい。毎日の新聞には何兆円、何十兆円という数字が踊っていますが、私たちは、「えらい仰山のお金やな」と思うだけなのです。 10 以上の数を「たくさん」と表現する人たちを嘲笑う資格はどうやら無さそうです。人間の数に対する想像力がいかに貧困であるかこのクイズで私は思い知ったのですが、皆様はどうだったでしょうか。
35 億年の生命の歴史の中で、5・5億年前のカンブリア紀に我々の祖先は酸素を利用して生活する能力を獲得しました。このやり方は非常に効率が良いので以後の生物の進化の原動力となったのですが、具合の悪いことに、この過程でどうしても活性酸素が発生することを前回申し上げました。
 活性酸素は通常、スーパーオキシドラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素の4種類であるとされています。話の都合上、難しい名前を並べ立てましたが、覚える必要は全くありません。ただ、この4種類の活性酸素は全て酸素を利用した代謝の過程で発生することをご理解下さい。
 現在では、人間の全呼吸酸素の約2%が代謝の過程で活性酸素になっていると計算されており、その量は大人では年間約2 kg にもなると推定されております。こんな大量の活性酸素の攻撃を受けているだけでは生物の方もたまったものではありません。そこで生物の方も、「やられるだけではたまらない」と、約5億年の進化の過程で色々な防衛手段を発達させてきました。その一つが、高等動物では「活性酸素消去酵素」と呼ばれる酵素群なのです。
 1969年(約 35 年前)、スーパーオキシドラジカルを消去する酵素、スーパーオキシドジスムターゼ(通称SODと呼ばれる)が発見されました。当時はまだ活性酸素が寿命や病気、つまり生命活動に深く関与しているとは考えられていなかったのですが、この酵素の発見により、エネルギー代謝過程での活性酸素生成の重要性がクローズアップされるようになったのです。SODが消去するスーパーオキシドラジカルは代謝の最も最初の段階で発生し、周りを酸化しながら、自身は今ひとつの活性酸素である過酸化水素に変身し、さらに周りを酸化しながら、最も過激な活性酸素であるヒドロキシラジカルを発生させる根源的な活性酸素なのです。活性酸素除去酵素はSODのほかにも、過酸化水素を分解するカタラーゼやグルタチオンペルオキシターゼが知られています。
 しかし、最も活性が強く悪質とされているハイドロオキシラジカルに対する除去酵素を人類はまだ獲得するに至っておりません。我々は進化の過程にいますから、近い将来(多分1万年か1000万年先)には、この能力を獲得しているかもしれませんね。もしそうなれば、人間の寿命はもっと延びているでしょうし、我々を悩ませている色々な病気もうんと少なくなっているかもしれません。人類が絶滅していなければ、の話ですけど。
《参考文献》
『活性酸素の話』永田親義/講談社ブルーバックス
『不老革命』古川敏一/朝日新聞社
(2005年12月1日掲載記事)