小人のお伽話は世界各国にあります。わが国では一寸法師が有名ですね。一寸法師は清水坂で鬼を退治し、立派な青年に生まれ変わりめでたしめでたしなのですが、ガリバー旅行記のような小人の国では平均寿命は短く、恐らく小人は 10 歳にならずして、皆、老衰で死んでいくことになるでしょう。前回述べたように、小さい動物ほど短命の原則に従うからです。
それならハエや蚊やカエルやカメはうんと短命なのかといえば、それはそうではありません。彼らは変温動物といって、体温を一定に保つ必要が無いからなのです。彼らの寿命はまた別のルールに従って決まっていることと思います。
しかし、彼らの寿命に活性酸素の影響が全く無いのかといえば、そうではないことが色々な事実から明らかになっています。イエバエを例に取ると、飛び回れるような広いかごの中で飼育した平均寿命が 16 日なのに対して、飛び回れない小さなビンの中で飼育したときの平均寿命は 38 日と2倍以上に延びるそうです。広々としたところに住んでいた方がいかにも長生きするように思いますが、意外ですね。イエバエでも運動をすれば酸素消費量が多くなり、代謝の過程で活性酸素がより多く発生するからだと考えられています。もう一つの例を挙げますと、ショウジョウバエでは、飼育温度を 25 ℃から 15 ℃に下げると、寿命が 29 日から 92 日と3倍以上延びるそうです。これは、変温動物の場合、外気温が上昇すれば、それにつれて代謝が活発になり、酸素消費量が増え活性酸素がより多く発生するようになるからなのです。
少し飛躍して、人間の場合も寒い方が長生きに有利かといいますと、これが全く逆で、暖かい環境の方が長生きに有利になるのです。何故だかもうお分かりのことと思いますが、人間の場合は体温を一定に保つために、寒いときにはより多くの燃料を燃やし体温を下げないようにする必要があるからです。今の人間社会は複雑で、気温が寿命に与える影響は少ないと思いますが、人間がサルと大差の無い生活をしていた時代では、寒さに震えていた人間の方が、より暖かいところに住む人間より、平均的に短命であったに違いありません。今でもその名残は残っており、日本でも長寿県は南の方に偏っている傾向にありますよね。
いずれにせよ、現在の人間社会の生活環境は野生の動物のそれとは全く違うので、単純にある一つの要素を長生きの原因と決め付けることは出来ませんが、世の中で語られる長生きの教訓(例えば「ストレスをためない」とか「バランスの良い食生活を心掛ける」等々)のほとんど全てに活性酸素が関与しており、これらの教訓の多くは、①如何にして活性酸素の発生を抑えるか、②如何にして出来た活性酸素の働きを抑えるか、ということに通じているのです。
次回からは、この①、②について順次お話したいと思います。
〈参考文献〉
『ゾウの時間ネズミの時間』本川達雄著/中央公論社
『老化のしくみと寿命』藤本大三郎著/ナツメ社
(2004年4月1日掲載記事)