活性酸素と発ガンの間に密接な関係があることはタバコの項でもお話しましたが、今一度おさらいをしておきます。
発ガン物質という言葉はご存知のことと思います。その昔、日本の山際博士が、ウサギの耳にコールタールを塗り続け、ついに、世界で初めて人工的な発ガンに成功した話は有名で、ご存知の方も多いでしょう。このコールタールのような物質を発ガン物質と言いますが、私たちの周りには発ガン物質が満ち溢れています。例えば、煙の中のベンツピレンや土壌中のダイオキシン、排気ガス、農薬、タバコの煙、さらには放射線、紫外線、最近ではアスベストが花形となってきており、数え上げればきりがありません。いわば、私たちは発ガン物質の中で生活しているようなものなのです。
しかし、私たち全員がガンになるわけではありません。どうして、ガンになる人とならない人に分かれるのか、ストレートの答えは難しいのですが、「ひょっとするとそうじゃないか」「多分こういうことなのではないか」くらいは分かっているのです。
一般に、身体がガンという病気に罹るには次の二つのステップを踏まなければなりません。①最初は一個の正常な身体の細胞がガン細胞に変わるというステップで、②次いで、出来たガン細胞が、身体の抵抗(免疫)に打ち勝ち病気と認識されるまで成長するステップです。この二つのステップが完成するには、約 15 ~ 20 年かかると言われています。
60 歳の人が、ある日病院に行き、「貴方は、初期の大腸ガンですよ」と言われたとしますと、その人は、すでに 40 ~ 45 歳で厳密に言えばガンに罹っていたことになります。ただし、その時には何の症状もありませんし、どんな検査をしても見つけることは出来ません。何の症状も無く検査でも異常が無ければ、その人は、変な話ですが、健康体であったとも言えるのです。
逆に言えば、現在何の症状も無く、検査でも異常が無い人でも、実はガンに罹っていることは充分にあり得る話なのです。別におどかすわけではありませんが、実はそうなのです。
身体の中にガン細胞が出来れば、それは成長して必ず臨床的なガンになるかと言えば、そうではなく、逆に大抵の人はガンにならずに、発生したガン細胞は免疫の作用により自然治癒してゆくことが多いのです。そうして、現在の所はっきりした証拠はありませんが、活性酸素の多い生活は、この免疫力を低下させると考えられています。つまり、活性酸素の多い生活は、ガン細胞が成長する良い環境を与え、ガン細胞に生き残るチャンスをより多く与えているのです。
それだけではありません。なんと恐ろしいことに、活性酸素は正常な細胞をガン化するという先ほど述べた①のステップに深く関係しています。正常な細胞は、ある日突然ガン化するわけではありません。細胞のガン化は、まず、正常な細胞の遺伝子に傷がつけられることから始まります。そして遺伝子に傷をつけるのは主として活性酸素や放射線の役割なのです。遺伝子に傷をつけられた細胞はすぐガン細胞になるわけではなく、いわば「いつでも、ガン化OK細胞」と言われる状態になります。この「いつでも、ガン化OK細胞」に発ガン物質が作用して初めて、この細胞はめでたくガン細胞に変身することが出来るのです。そして、以後の経過は前述したとおりで、この経過を通じて、人間がガンという病気に罹るという前経過を通じて、活性酸素が重大な役割を果たしていることが、したがって活性酸素の影響を少なくすることがガンの予防に役立つことが、ご理解頂けたと思います。
《参考文献》
『不老革命』吉川敏一著/朝日新聞社
『活性酸素の話』永田親義著/講談社
(2006年10月1日掲載記事)