あけましておめでとうございます。年の初めでもありますし、何か景気のいい話でもしたいのですが、活性酸素の話というと、病気、老化、寿命と、あまりいい言葉が続きません。おまけに、医者と坊主の話は、昔から面白くないと決まっていますので、読者の皆様も大変だと思いますが、何とか辛抱して読み続けて頂ければうれしく思います。
先月号で、活性酸素にやられるだけではたまらないので、身体の方も防衛機構を発達させ、その一つが、活性酸素を除去するスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)という酵素であることをお話しました。SODが発見されて以来、「SODを多く持っている動物ほど、寿命は長いはずだ」とSODと寿命の関係が調べられましたが、案に相違して、はかばかしい成果は得られませんでした。
ところが、1980年、アメリカ国立老年学センターのカトラー博士が、この問題に終止符を打ちました。カトラー博士はただ単にSODの活性を比べても意味が無いと考えたのです。ネズミのエネルギー代謝率は人間の 30 倍もありますから、たとえSODの活性が人間の数倍高かったとしても、SODで消去されないで残る活性酸素の量は人間よりずっと多いわけです。したがって、SODの活性そのものではなく活性酸素の生産量との比を比べなければならなかったのです。このことは、言われてみれば当たり前の話なのですが、コロンブスの卵ですね。この考えを基に、博士が高等動物の寿命とSODとの関係を調べたところ、別図のような、寿命とSODの見事な関係を発見したのです。この図を見ますと、活性酸素の発生量に対してSODの活性が高い動物が長寿であることがよく分かります。なかでも人間はSODの活性が飛び抜けて高く、特別な存在であることがよく分かります。
以前、哺乳動物の体重と寿命の関係を図でお見せしました。ハツカネズミ2年、イヌ・ネコ 15 年、ウマ 40 年、ゾウ 60 年でしたが、人間のみは体重は大したことはないのに寿命は 90 年と飛び抜けて長寿であったことを不思議に思われた方々もいらっしゃったでしょう。これでなぜ人間だけが飛び抜けて長寿であるかの説明はとりあえず出来たようです。
250万年前、最も原始的な人類が誕生した頃、人間の寿命はおそらくこの表から大きく外れることはなく、イヌとウマの中間、おそらく 30 年ぐらいだったのではないでしょうか。そうして、この250万年の間に、人間は寿命を延ばす遺伝的な努力を営々と続け、ついに 90 年ほどの寿命を有する例外的に長寿な哺乳動物に進化してきたのです。無理やりにめでたがっているきらいはありますが、なんとめでたい話ではありませんか。
《参考文献》
『活性酸素の話』永田親義著/講談社ブルーバックス
『不老革命』古川敏一著/朝日新聞社
(2006年1月1日掲載記事)