生命の起源は約 35 億年前と言われています。生命とも言えないような生命が地球に誕生したとき、太古の海や大気には酸素は含まれていませんでした。
我々は子供の頃、未開の人々は 10 以上の数を数えられず、それ以上の数は「たくさん」と表現すると嘲笑っていましたが、なに、我々だってあまり変わりはないのです。毎日100万円を使えば、1兆円は一体何年ぐらいで使い切ることが出来るでしょうか。このクイズがすぐ出来る人は未開の人を嘲笑うことが出来ますが、出来ない人はまあ似たようなものなのです。毎日100万円を使うのを想像するのは不愉快な話ではありませんので、次号で正解を見るまでに楽しんで考えておいて下さい。
少し話がわき道にそれましたが、とにかく 35 億年前という途方もない大昔、生命が地球に誕生し、それが進化に進化を遂げ、ついに人間が誕生したのです。わずか約500万年前と言われています。ざっとこの進化を振り返ってみますと、 35 億年前から約5・5億年前までの約 30 億年間、太古の海に誕生した生命は、多くは単細胞のまま、ほとんど進化をしませんでした。それが、約5・5億年前のカンプリア紀と呼ばれる時代になって、一斉に花が咲くように原始の生命は多細胞化し、多彩な種別に分かれ始めたのです。これをカンプリア紀の生命の大爆発と呼んでいます。環境が激変したのに違いありません。
何が起こったのでしょう。それは大気中の酸素濃度の上昇でした。太古の地球には酸素はほとんど存在せず、生物たちは非常に粗悪なやり方で生命を維持するためのエネルギーを取り出しており、だから進化や分化をする余裕が全くありませんでした。しかし細々と発生してきた植物(藻類)の光合成により、地球上の酸素濃度が徐々に上昇し、現在の酸素濃度の約1000分の1になったのがこのカンプリア紀だったのです。それまでの生物にとって酸素は猛毒だったので、この酸素濃度の上昇によって多くの生物が壊滅的な打撃を受けたことでしょう。しかし全滅することはなく、あろうことか、この猛毒を利用してエネルギーを取り出す仕組みを構築し始めたのです。やってみるとこの方法はとても効率がよく、例えて言えばロウソクの火と原子力発電くらいの差があったのです。
生物たちが酸素を利用して取り出したこのエネルギーは、生命の維持だけでなく、余った分は多細胞化や生物の多種類化、つまり生物の進化に向けられるようになってきたのです。
しかし、酸素という猛毒を利用したエネルギーの取り出し方は、生物にとって都合のよいことばかりではありませんでした。ちょうど原子力発電が種々の困難な問題(放射性廃棄物、放射能漏れ、等々)を抱えているのと同様に、活性酸素の処理という厄介な問題を抱えてしまうことになったのです。生物が酸素を使って糖を分解してエネルギーを取り出す過程は、まるで魔法のように精緻に出来上がっていますが、どうしてもこの過程で活性酸素が発生してしまうのです。したがって、我々は何もしなくても、生きているだけで活性酸素の害を受け続けており、これが老化や多くの慢性病の根源的な原因となっているのです。「生きているのが健康に最も悪い」のです。
(2005年11月1日掲載記事)