哺乳動物の寿命を見てみましょう。例えば、ゾウは約 60 年、ウマ、ゴリラは 40 年、イヌ、ネコ 15 年、ハツカネズミは3年、体重が増えるにしたがって寿命が長くなっているのがわかります。
 何故、ネズミはネコより長生き出来ないのでしょうか。食べられてしまうから、というのは落語の世界の話で、本当は、体重あたりの酸素消費量がネズミはネコより多いからなのです。恒温動物は常に体温を一定に保たなければなりませんが、体温は常に体の表面から逃げていきますので、それを補うために、体の中で糖分を燃やして熱を補充しなければなりません。糖分を燃やすには酸素が必要ですので、体積あたりの表面積が大きければ大きいほど、体積あたりの酸素消費量が増えるのです。
 少しわかりにくいので、サイコロ型の動物を例にとって話しましょう。一辺が1㎝のサイコロ型動物の体積は1立方㎝で、動物の体はほとんど水で出来ていますので、その重さは約1gになります。表面積は6平方㎝です。つまり体重と表面積との比は1対6です。一辺が2㎝の動物では体重が8g、表面積は 24 平方㎝となり、この比は1対3、さらに一辺が4㎝だと、この比は1対1・5となります。つまり体積の小さい動物ほど大きな表面積の面倒を見なければならないのです。だからネズミの1gの体の細胞はネコの1gの体の細胞よりも多く働かなければ体温が維持できず、生きていくことが出来ません。より多く働くためには、より多くの酸素を消費しなくてはならず、より多くの酸素を消費すると、より多くの活性酸素が発生し、これが細胞に障害を与えることになるのです。哺乳類の中で体重4gと最も小さいトリガネズミは、生命を維持するために、その心拍数は毎分800回にも達し、絶え間なく食べ続け、その寿命は2年だそうです。
 この理屈によって、小さい動物はより大きな動物に比べて体積あたりの活性酸素の発生量が多く、大きな動物より体の細胞がより早く、より大きなダメージを受けるようになり、細胞の老化が加速するのです。だから小さい動物はより大きい動物に、長生き競争では勝つことは出来ないのです。
 別にこんなことを知っていても、自分の長生きの足しには全然ならないのですが、活性酸素がいかに生物の生命と結びついているかご理解頂けたのではないかと思います。
〈参考文献〉
『ゾウの時間ネズミの時間』本川達雄著/中央公論社
『老化のしくみと寿命』藤本大三郎著/ナツメ社
(2005年9月1日掲載記事)