前回は、病気としてのがん(臨床的ながん)が完成するまでに3段階あり、その全ての段階でタバコの煙の中に含まれる活性酸素(過酸化水素)が大きな働きをするとお話しましたが、これは何もタバコと肺がんとの関係に限った話ではありません。活性酸素は身体のあらゆる部位で、細胞のDNAを傷付けることによって細胞をがん化させ、生体の免疫能を低下させることによって発生したがん細胞の発育を促進するのです。だから、あらゆるがんの共通の原因になっていることがお分かり頂けるかと思います。
タバコの煙の中に含まれる過酸化水素は割合安定な活性酸素であり、肺ですぐに分解されることなく全身の隅々にまで運ばれる場合があります。タバコの煙と直接接触する臓器のがん、つまり肺がん、喉頭がん、食道がん、口腔がんなどの発症率が喫煙によって激増しますが、煙と関係なさそうな乳がん、大腸がん、子宮がん、すい臓がん、つまり身体のあらゆる部分のがんの発症率が喫煙により増えるのはこのためなのです。特に、申し添えますが、過酸化水素は安定している活性酸素だと申し上げましたが、ある種の触媒、例えばアスベストに触れると猛烈な酸化力を発揮します。肺がんでは喫煙者は非喫煙者の4・5倍の罹患率ですが、アスベストを扱う人では、これが何と 50 ~ 90 倍という恐ろしい数字になります。建築現場でアスベストを吸いながら、タバコを吸っている人を見ると、まるで「早く肺がんに罹りたい」と神仏に祈っているのではないかとさえ思ってしまうのです。
タバコの場合を例に取り、活性酸素ががんの根源的な原因であることを説明致しました。活性酸素を取り込む人が多い人や体内で多く発生させる人、活性酸素に対する抵抗が弱い人はがんになりやすいのです。
〈参考文献〉
『活性酸素の話』永田親義著/講談社―ブルーバックス
(2005年8月1日掲載記事)